『屋根部屋のプリンス』は朝鮮時代と現代とが交錯するタイムスリップもののファンタジー・ラブコメ時代劇。

 ラブコメと言いながら、始まりは朝鮮時代、王宮での世子妃の謎の死…というミステリーでスタート。そのただならぬ緊迫感の中、ユチョン演じるカリスマあふれる世子の姿が描かれるが、自分の妃の死の謎を探るうちに、なんと世子は3人の部下とともに現代の屋根部屋にタイムスリップしてしまう。着いた先にいたのは亡き后にそっくりな女性…ではなくて、なぜか妃の妹にそっくりな女性で、彼女が住んでいる屋根部屋に男4人で転がり込むことになるのだが、ここからがもう爆笑レベルのラブコメになっていくのだ。

 とくにミスマッチの妙に笑わせられる。300年の時を超えて過去からやって来ただけに、現代の文明の利器がすべて新鮮。携帯電話の着信音に驚いたり、カップラーメンに見入ったり、テレビにビビったりといちいち反応が面白い。オムライスを食べて感動したり、ペットボトルのふたが開けられなかったり。極めつけが、時代物の衣装ではだめだからと、ヒロインが世子たちにジャージを着せるのだが、ザンバラの長い髪にジャージ姿という笑えるスタイル。その姿で3人の部下が皇太子に跪くし、皇太子も威厳を保とうとするので、「ジャージ」と「威厳」という似合わなさがなおさら笑いを誘う。トラックの荷台に色違いのジャージを着た男たちが居心地悪そうに乗っているという絵面だけでおかしいし、現代生活に慣れない彼らが逞しい女子にビシビシしごかれ、叱られる姿が楽しい。ことほどさように、朝鮮時代では威厳に満ちたカリスマのある世子だったのに現代では形無し…というギャップに笑えるのだ。

 そう、タイムスリップはだいたい一人の人間が別の時代に放り出されるものであるが、ここでは世子が腹心の部下たちと一緒にチームで行くところが面白く、その4人が揃って右往左往する感じがおかしさを倍増させている。でも王宮ではきっと堅苦しい生活であったであろう世子が現代で生き生きと遊びや生活を楽しんではしゃぐ姿がなんだか愛おしい。ストローを使ってドリンク飲んでる姿なんて最高に可愛い。こんな具合に、カリスマと威厳のある姿から始まって、戸惑う姿、キュートな笑顔、そして、真相を追求する時の鋭い眼差しと、ユチョンの表情変化がたくさん楽しめる。おまけに世子と、現代の自由人気質の御曹司、その御曹司に成りすました世子、という一人3役ともいえる演技を披露しているので、ユチョンの魅力をめいっぱい感じられるドラマになっている。

 ハン・ジミンも元気のいい逞しい姉御肌の現代女性と、朝鮮時代の哀愁を秘めたしとやかな女性という一人二役がどちらもハマっていて、彼女のつぶらな瞳がみるみる潤む泣き顔が最高に素敵で、その分胸が痛む。

 ストーリー的には、過去と現代のエピソードがパズルのように出てきて、その2つの時代の人間関係が呼応するようにつながっていき、御曹司の後継者問題はどうなるのか、行き違ってしまった過去の愛の行方はどうなるのか、ねじれてしまった縁は元に戻るのか?このタイムスリップにはどんな意味があったのか?などなど、あれもこれもが詰まっているが、最終的には、1人の女性の、「命を懸けで守り抜いた愛が呼び起こした奇跡」というところに集約されていくのが大きな感動を呼ぶ。

 このドラマは、脚本家自身が亡き妻への想いから描いた作品だというだけあって、あとに残されゆく者の哀しみ、切なさに寄り添っている。だから大いに笑って切なく泣いてもとてつもなく愛おしさがこみあげてくるのかもしれない。そっと抱きしめたくなる作品だ。

韓流ナビゲーター 田代親世